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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)78号 判決 1990年1月31日

東京都三鷹市井口三丁目一四番の一

原告

榎本武男

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被告

武蔵野税務署長

永野重知

右指定代理人

武井豊

大池忠夫

高橋孝二

關口信一

安達繁

渡邉定義

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六十一年三月六日付けでした原告の昭和五七年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (処分等の経緯)

原告の昭和五七年分の所得税に係る処分等の経緯は、別表一記載のとおりである(以下、同更正を「本件更正」、同過少申告加算税の賦課決定を「本件決定」という。)。

2  (違法事由)

しかしながら、本件更正は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件更正を前提とする本件決定も違法である。

3  よつて、原告は、被告に対し、本件更正及び本件決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

三  抗弁

1  本件更正の適法性

(一) 原告の昭和五七年分の所得税の額は、次のとおりである。

(1) 総所得金額 九九三万三六五三円

(2) 分離課税の短期譲渡所得金額 四〇六六万五〇二三円

右金額は、次の譲渡収入金額から取得費を差し引いたものである。

<1> 譲渡収入金額 四四八一万円

右金額は、原告が昭和五七年八月二〇日原告所有の茨城県東茨城郡茨城町大字木部字皿久保一六九七番の土地(一六九八番及び一七〇二番を合筆、以下「皿久保の土地」という。)と野口惣重所有の茨城県東茨城郡城町大字木部字小清水台一八三二番二及び同番三の土地(以下「小清水台の土地」という。)とを交換し、同日、右小清水台の土地を小林商事有限会社ほか一名に合計四四八一万円で売却したことによる代金に相当する金額である。

これは、原告が皿久保の土地の対価として小清水台の土地を交換取得していることから本来、所得税法三六条一項及び二項の規定により、交換取得資産の交換時の価格がその収入金額になるところ、右交換に際し、交換差金の授受がなかつたこと及び交換取得資産を同日直ちに譲渡していることから、所得税法五八条の適用はなく、交換資産である皿久保の土地による収入金額が、交換取得資産である小清水台の土地の譲渡価格と同額とされるために導かれた金額である。

なお、皿久保の土地は、後記のとおり、昭和四七年一二月四日に取得した土地であり、前記のとおり、昭和五七年八月二〇日に交換譲渡したのであるから、原告が右土地を譲渡した年の一月一日においては、その保有期間は一〇年以下であるため、分離短期譲渡所得となる(昭和六二年法律第九六号による改正前の租税特別措置法三二条)。

<2> 取得費 四一四万四九七七円

原告は、昭和四七年一二月四日、たたえ沼産業株式会社から、茨城県鹿島郡大洋村大字二重作字磯部六二四番一外三筆の土地(以下「大洋村の土地」という。)及び皿久保の土地を代金合計金額一億四七七〇万四〇〇〇円で取得した。しかし、右土地のそれぞれの価格が個別的に定められたものであるのか明らかでなく、原告の申立てによつても皿久保の価格が定かにならなかつたことから、被告は、皿久保の土地の取得価格を取得時の時価の割合によつて算定することとしたが、その時価については、相続税法二二条に関する相続税財産評価基準(昭和三九年四月二五日付け直資五六国税庁長官通達)に拠るのが最も合理的である。すなわち、その他の時価の算定方法として、売買実例を基にする方法、公示価格を参考にする方法又は固定資産税評価額を参考にする方法も考えられるが、前二者の方法は、該当する部分の資料が存在しないため、これらの方法を採ることができず、また、後者の方法も対象土地が異なる市町村に所在していること及び固定資産税評価基準は毎年改定されていないこと等からして、合理性、客観性を欠くといわざるを得ず、これに対し、相続税財産評価基準は、同一機関が同一基準で作成したものであり、また毎年改訂されていることから、より合理的、かつ客観的なものである。

そこで、まず、大洋村の土地の相続税評価額を次のとおり算出した。すなわち、被告は、大洋村の土地四筆の昭和四七年度の固定資産税評価額について、同村長に照会し、同村長から右四筆のうち、道路部分については不明であるが、これを除く三筆の土地の合計の評価額は二〇万五五〇〇円であるとの回答を得た。右道路部分は、他の三筆の土地と現況も同様であつたと認められたから同様な評価額を付すべきであると判断することができた。そこで、その評価額は、三筆の土地の合計の評価額二〇万五五〇〇円に、道路部分の面積六一二平方メートルが三筆の土地の合計面積四〇七五三平方メートルに占める割合を乗じて算出した金額三〇八六円とした。したがつて、大洋村の土地四筆全体の固定資産税評価額は、右三筆の土地の合計の評価額二〇万五五〇〇円に右道路部分の評価額三〇八六円を加算した金額二〇万八五八六円となつた。そして、この土地の相続税評価額は、倍率方式により算出することとされているので、右固定資産税評価額二〇万八五八六円に昭和四七年の相続税財産評価基準により求めた該当倍率「原野一〇六倍」(前記大洋村の村長の回答によれば、大洋村の土地は、昭和四七当時の現況は「雑種地」とされているものの、当該土地の現況は原野に近い状況であつたので、「原野一〇六倍」を採用した。)を乗じて計算すると、相続税評価額は二二一一万一一六円となつた。

次に、皿久保の土地の相続税評価額は、昭和四七年当時「畑」であつた皿久保の土地の固定資産税評価額一一万六〇七〇円に相続税財産評価基準により求めた該当倍率「五・五倍」を乗じて、六三万八三八五円と算出した。なお、相続税財産評価基準によると、「畑」の倍率としては「三三倍」も考えられるが、この適用地域は限定されており、この地域以外の地域は総て「五・五倍」で評価されていたことから、皿久保の土地には三三倍の倍率を適用せず、五・五倍として評価した。

以上のとおり、大洋村の土地の評価額は二二一一万一一六円、皿久保の土地の評価額は六三万八三八五円と算出されたから、前記の取得合計金額一億四七七〇万四〇〇〇円に、皿久保の土地の評価額の大洋村及び皿久保の両土地の評価額が占める割合を乗じて、皿久保の土地の取得費を四一四万四九七七円と算出した。

(3) 納付すべき所得税額

原告の所得金額に対して原告が納付すべき所得税額は、別表二記載のとおりである。

(二) 本件更正の適法性

前記のとおり、原告の昭和五七年分の所得金額は、総所得金額九九三万三六五三円、分離課税の短期譲渡所得金額四〇六六万五〇二三円であるところ、本件更正による所得金額は、総所得金額九九三万三六五三円、分離課税の短期譲渡所得金額二四二万七七六八円であり、右の範囲内であるから、本件更正は適法である。

2  本件決定の適法性

本件決定は、本件更正により新たに納付すべき税額について、昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条四項に定める正当な理由が認められないから、同条一項により右税額(同法一一八条三項の規定により一万円未満端数切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した過少申告加算税の賦課決定であつて適法である。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1(一)(1)は認める。

2  同1(一)(2)<1>のうち、原告が、昭和五七年八月二〇日、原告所有の皿久保の土地と野口惣重所有の小清水台の土地とを交換し、同日、右小清水台の土地を売却したことは認めるが、その売却の相手方が小林商事有限会社ほか一名であることは不知。その余の事実は否認する。小清水台の土地の売却代金は三五〇〇万円である。

3  同1(一)(2)<2>のうち、原告が昭和四七年一二月四日たたえ沼産業株式会社から大洋村の土地及び皿久保の土地を買い受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。大洋村の土地及び皿久保の土地の買受け代金は九七七〇万四〇〇〇円であり、そのうち皿久保の土地の買受代金は三五〇〇万円である。

4  同1(一)(3)は否認する。

5  同1(2)は争う。

6  同2は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(処分等の経緯)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正及び本件決定が適法であるかどうかについて検討する。

1  本件更正について

(一)  原告の昭和五七年分の総所得金額が九九三万三六五三円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  次に、原告の昭和五七年分の分離課税の短期譲渡所得金額について検討する。

(1) まず、譲渡収入金額について検討すると、原告が昭和五七年八月二〇日原告所有の皿久保の土地と野口惣重所有の小清水台の土地とを交換し、同日右小清水台の土地を売却したことは、当事者間に争いがなく、証人渡辺定義の証言並びに同証言により成立が認められる乙第五号証の一及び第六号証の一によれば、右売却の相手方は小林商事有限会社及び小林徳治であり、右売却代金額は四四八一万円であることが認められる。

そうすると、交換によつて取得された小清水台の土地の交換時の時価相当額が原告の皿久保の土地の譲渡に係る総収入金額に算入されるものであるところ、右交換時の時価相当額は、交換の日に直ちに譲渡されたことから、特別の事情がない限り、その譲渡価格と同額の四四八一万円であると認められる。したがつて、原告の皿久保の土地の譲渡に係る収入金額は四四八一万円であるといわなければならない。

(2) 次に、取得費について検討すると、原告が昭和四七年一二月四日たたえ沼産業株式会社から大洋村の土地及び皿久保の土地を買い受けたことは当事者間に争いがない。証人渡邉定義の証言、同証言により成立が認められる乙第七号証及び第八号証の一ないし三、原本の存在及び成立を含めて成立に争いのない乙第一号証並びに弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を含めて成立が認められる甲第一ないし第三号証によれば、右両土地の買受代金額は一億四七七〇万四〇〇〇円であるが、売買契約書上は、これを九七七〇万四〇〇〇円と表示する処理がなされたことが認められる。右認定に反する甲第四号証の一は、証人渡邉定義の証言等前掲各証拠に照らし、採用することができない。

右のとおり、大洋村の土地及び皿久保の土地の買受代金額は一億四七七〇万四〇〇〇円であると認められるが、右両土地のそれぞれの買受代金額を明らかにするものはなく、皿久保の土地の買受代金額は明らかではないといわざるを得ない。

しかしながら、原告は、皿久保の土地の買受代金額は三五〇〇万円であると主張するので、右土地の取得価格は多くても原告の自認する三五〇〇万円を超えることはないものというべきである。

(3) したがつて、原告の昭和五七年分の譲渡所得の金額は少なくとも、右譲渡収入金額から右取得費を差し引いた九八一万円であるというべきであり、皿久保の土地は、昭和四七年一二月四日に取得され、昭和五七年八月二〇日に譲渡されたものであるから、租税特別措置法三二条(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)により、右譲渡所得は、分離課税の短期譲渡所得となる。

(三)  そうすると、本件更正に係る原告の昭和五七年分の総所得金額は九九三万三六五三円、同短期譲渡所得の金額は二四二万七七六八円であつて、いずれも右認定の総所得金額九九三万三六五三円、短期譲渡所得の金額九八一万円の範囲内であるから、本件更正は適法であるというべきである。

2  本件決定について

本件更正は適法であるから、抗弁2のとおり算出された過少申告加算税を賦課する旨の本件決定も適法である。

三  よつて、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 小林昭彦)

別表一

昭和五七年分課税処分の経緯

<省略>

別表二

<省略>

注記

順号<2>の金額は、原告の合計所得金額が(順号<1><4>の合計額)一〇〇〇万円を超えることとなるため老年者控除は認められず(昭和五九年法律第五号による改正前の所得税法二条一甲三〇号、八〇条)、原告が申告書に記載した所得控除額八〇万円から老年者控除分二三万円を差し引いた金額である。

順号<3><4>の金額は国税通則法一一八条一項の規定により、一〇〇〇円未満を切捨てた後の金額である。

順号<5>の金額は昭和五九年法律第五号による改正前の所得税法八九条の規定により算出された金額である。

順号<6>の金額は昭和六二年法律第九六号による改正前の租税特別措置法三二条一項二号の適用により算出した金額である。

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